グリニッジの子午線でGPSは0を指さない。でも狂っているのは線でも時計でもない

科学

ロンドンのグリニッジ天文台には、本初子午線を示す有名な線が引かれています。世界中の観光客がまたいで写真を撮る、経度ゼロの線です。ところがその上に立ってスマートフォンを見ると、経度は0度になりません。ゼロを表示させるには、東へ約102メートル歩く必要があります。

この理由はよく「地殻変動でずれた」「GPSが不正確」などと説明されますが、どちらも違います。2015年、米海軍天文台などの研究者5人がジャーナル・オブ・ジオデシー誌に発表した論文が、これらを名指しで否定しました。地球の極運動も、プレート運動による地殻の移動も、102メートルという差を説明するには小さすぎるのです。

19世紀の観測は、間違っていなかった

本当の原因は、重力でした。当時の天文学者は望遠鏡の鉛直を、水銀を張った水盤で出していました。水銀の面は「地球の重心」に対して垂直になるのではなく、その土地の重力に対して垂直に落ち着きます。ロンドンの地下の岩の分布によって、その鉛直はほんのわずか傾いていたのです。

論文の計算がみごとです。観光名所の線の測地経度は西へ5.310秒角。そこに重力による偏差の東西成分5.502秒角を足し戻すと、答えは0.192秒角になります。測定の誤差はプラスマイナス0.47秒角ですから、これは事実上ゼロです。つまり130年以上前の観測は誤っていなかったことが、現代の重力モデルによって証明された形になります。「ヴィクトリア朝の天文学者がミスをした」という説明を見かけることがありますが、論文の結論はその正反対です。

線は102メートルずれたが、時刻は1秒も狂っていない

そして、この話でいちばん美しいのがここです。現在GPSが使う子午面と、グリニッジの子午面は、平行なのです。論文の表現を借りれば、無限遠まで伸ばした2つの子午面は、同じ星を同時に横切ります。地面の上では102メートル離れていても、面の向きが同じなので、示す時刻はまったく変わりません。ずれたのは線であって、時間ではなかったわけです。

ちなみに現在の「本当のゼロ」の位置には、公式の標識がありません。2015年に報じられた際、天文台の公式天文官はこう述べています。「今のところ、目印に一番近いのはゴミ箱です」。

そもそも、なぜグリニッジだったのか

1884年の国際子午線会議の議事録を読むと、選定理由も少し意外です。当時、世界には少なくとも11本の本初子午線が乱立していました。議事録に載っている統計によれば、グリニッジを起点にしていた船舶は隻数で65%、トン数では72%。残りの28%を10本の子午線が分け合っている状態でした。科学的な優位性というより、実質的なシェアで決まったわけです。採決ではフランスとブラジルが棄権し、サンドミンゴのみが反対しました。

負けたフランスの対応がまた見事です。1911年3月9日の法律で標準時を定めた際、その定義を「パリ平均時を9分21秒遅らせた時刻」と書きました。中身はグリニッジ標準時そのものですが、「グリニッジ」という語を一度も使っていません。この言い回しは、1978年に協定世界時を基準とする形に改められるまで、67年間使われ続けました。


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参考にした情報源: doi.org

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