「人間の細胞は7年ですべて入れ替わる。だから7年前のあなたと今のあなたは、物理的には別人だ」。よく聞く話ですが、この「7年」という数字に、確かな出典はありません。日本語で調べると「5年」「6〜7年」「7年」と数字がばらつくのも、元になる研究が存在しないことの表れです。
では本当のところ、細胞はどれくらいで入れ替わるのか。細胞に製造年月日は書いてありません……と思いきや、実は書いてありました。しかも、書き込んだのは冷戦です。
核実験が、全人類の細胞に年号を刻んでいた
1955年から1963年にかけての大気圏核実験で、大気中の炭素14の濃度が平常時の約2倍まで跳ね上がりました。1963年の部分的核実験禁止条約で実験が止まると、濃度は年々下がっていきます。人間は食物を通じてこの炭素を取り込みますが、細胞のDNAは一度作られると炭素を交換しません。つまり、DNA中の炭素14の濃度を測れば、その細胞が生まれた年代が分かるわけです。
2005年、スウェーデンのカロリンスカ研究所のヨナス・フリセンさんらがこの方法を発表しました。人類史上最悪の実験の副産物が、細胞の年齢を測る「時計」になったんです。ちなみにこの時計、核実験由来の炭素14が年々背景レベルに近づいているため、いずれ使えなくなる期限つきの道具でもあります。
肝臓は3歳未満、脳と水晶体は生まれた時のまま
分かったのは、組織によって速度がまるで違うということでした。腸の上皮は3〜5日、赤血球は約120日、皮膚の表皮は40〜56日。肝臓は何歳の人でも平均3歳未満という若さを保っています。骨格はおよそ10年、脂肪細胞は年に1割ほど、筋肉は30代の人で平均15年ほどでした。
一方で、ほとんど入れ替わらないものもあります。大脳新皮質のニューロンは、生まれた頃のものを一生使い続けます。目の水晶体の中心部にいたっては、胎児期に作られたタンパク質が生涯そのまま。心筋細胞の入れ替わりは25歳で年1%、75歳で0.45%ほどで、一生のうちに入れ替わるのは半分に満たないと報告されています。卵子にいたっては、母親の胎児期に作られたものが最長50年ほど眠り続けています。
なお「大人の脳では新しい神経細胞は作られないのか」という問題は、海馬という部位に限ると今も論争中です。2013年には作られているという報告があり、2018年には否定と肯定の論文が同じ年に出て真っ向から対立しました。2025年の新しい研究は作られている側を支持していますが、個人差がとても大きいことも分かっています。
そんなわけで、「7年で全部別人」にはなれないようです。何年経っても、あなたの脳と瞳の芯は、生まれた頃のあなたのままです。ちなみにこの炭素14の時計、法医学でも使われていて、歯のエナメル質から生年を誤差1.6年ほどで推定でき、実際にスウェーデン警察が津波の犠牲者の身元特定に使ったことがあるそうです。
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参考にした情報源: pubmed.ncbi.nlm.nih.gov


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