南極の分厚い氷の下から、あべこべに「上向き」に飛び出してくる謎の電波——。NASAの気球実験「ANITA(南極インパルス過渡アンテナ)」が捉えたこの信号は、物理学者たちを長年悩ませています。
ANITAは、南極上空に浮かべた気球から電波を観測し、宇宙から飛んでくる高エネルギーのニュートリノなどを探す実験です。ところが2006年と2014年ごろの観測で、地面の方から——つまり地球を突き抜けて「下から上へ」やってくる強い電波パルスが見つかりました。
これがなぜ不思議かというと、そんなに高エネルギーの粒子は、地球の岩盤を通り抜ける前に吸収されてしまうはずだからです。標準理論では説明がつきません。だから一部の研究者は、未知の粒子の証拠ではないかとまで考えました。
その後、IceCubeのような巨大なニュートリノ検出器がいくら探しても、対応する信号は見つかりませんでした(米ペンシルベニア州立大のステファニー・ヴィッセル氏らの2025年の研究)。氷の反射などありふれた現象でも説明しきれず、謎はむしろ深まっています。
宇宙人の通信でも、無人基地からの発信でもありません。けれど、地球の裏側から届く「あり得ないはずの電波」は、私たちの物理学にまだ埋まっていない空白があることを、静かに告げているのかもしれません。
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