スイスのバジルという街の教会に、奇妙な遺言を持つ数学者の墓石があります。そこには、拡大しても縮小しても同じ形を保つ、不思議な螺旋が刻まれているはずでした。
その人物とは、17世紀の数学者ヤコブ・ベルヌーイ。彼は、自然界に遍く見られる「対数螺旋」の自己相似性に魅せられていました。まるで、どんなに成長しても、あるいは衰えても、その本質は変わらないかのような、永遠の形だと感じたのです。
「この形を私の墓に刻んでほしい」と遺言を残しましたが、残念ながら、彫刻家は彼が愛した対数螺旋ではなく、似ているけれど少し違う「アルキメデス螺旋」を彫ってしまったそうです。ちょっとした勘違いが、数学者の永遠の願いを、ほんの少しだけずらしてしまったのですね。
でも、この対数螺旋、実は私たちの身近なところにたくさん隠れています。オウムガイの殻の優美なカーブ、台風の雲の渦巻き、そして遠くの銀河の腕の形まで。スケールは違えど、同じ「成長」や「広がり」のパターンを見せているのです。
さらに面白いのは、この螺旋が「黄金比」とも深いつながりを持つことです。黄金比は、古くから美しいとされる比率ですが、対数螺旋は、その黄金比と関連の深い「黄金角」、約137.5度を保ちながら広がっていくことがあります。
ヤコブ・ベルヌーイは、1690年代にこの対数螺旋を熱心に研究しました。彼が亡くなったのは1705年。その時、彼が夢見た「永遠の形」は、墓石の上ではなく、自然界のあちこちで、静かに息づいていたのかもしれません。
個人的には、あの墓石の勘違いが、かえって対数螺旋の不思議さを際立たせているように感じます。完璧ではないけれど、それでも美しい。そんな、数学者が見た「永遠」の形に、どこか人間らしさを感じてしまうのです。
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