歌声の音程を自動で補正するソフト「オートチューン」。発明者はアンディ・ヒルデブランドさんという人物です。彼はもともと石油会社エクソンで地球物理学者として働き、地中に反射する地震波のデータを解析する「自己相関」という数学的手法を扱っていました。それを音声のピッチ検出に応用して生まれたのがオートチューンだ、とよく語られています。
本人は「まったく違う」と言っている
ところが、この分かりやすい「美談」を、当のヒルデブランドさん本人が否定しています。「石油探査の技術がそのままオートチューンになったのか」という質問に対し、「いや、それはまったく違う」と答え、「2つの仕事の間に本当の意味での重なりはない。時期がたまたま重なっていただけだ」と説明しているんです。自己相関という手法自体は、当時すでに音声処理の分野でも一般的に使われていた技術。ヒルデブランドさんは、その汎用的な数学の道具を、人生の異なる時期に、地球物理学と音楽という別々の問題へ、それぞれ独立して応用しただけだった、というのが本人の認識のようです。
開発は1996年、1997年1月のNAMMショーで発表され、同年9月19日に発売されました。
シェールの「Believe」、あの声は隠されていた
この技術が一躍有名になったのは、1998年のシェールの楽曲「Believe」でした。プロデューサーのマーク・テイラーさんとブライアン・ローリングさんは、音程を瞬時にスナップさせる極端な設定でオートチューンを使い、あのロボットのような声を作り出します。ただし当時、この効果の正体は隠されていました。専門誌サウンド・オン・サウンドは1999年、これを「ボコーダー」というまったく別の機材の効果だと報じています。しかし後年、同誌自身がこの記事を訂正し、プロデューサーたちが企業秘密を守るため、意図的にボコーダーの仕業だと吹聴していたことを認めました。この曲はグラミー賞のベスト・ダンス・レコーディング賞を受賞しています。
その後、オートチューンは目立たない音程補正としてポップス制作の定番になる一方、あえて不自然さを強調する演出としても広まっていきます。2005年頃からT-Painさんがヒップホップ・R&Bのシグネチャーサウンドとして確立し、賛否を呼ぶ流行となりました。
関連記事
参考にした情報源: patents.google.com


コメント