1937年6月4日、アメリカ・オクラホマシティのスーパーマーケットに、世界を変える発明が登場しました。車輪付きのフレームに買い物かごを2段載せる、折りたたみ式のショッピングカートです。考案したのは、地元でスーパーチェーンを経営していたシルヴァン・ゴールドマンさん。客の買い物量が「手持ちかごの重さ」で頭打ちになることに気づき、事務所の折りたたみ椅子を眺めていてひらめいたそうです。試作は店の整備係フレッド・ヤングさんが担当しました。
新聞広告まで打った鳴り物入りのデビューは、しかし大失敗に終わります。男性客は「かごくらい自分で持てる」と拒み、女性客は「ベビーカーはもう十分押しました」とそっぽを向く。使ってくれたのは、高齢のお客さんだけだったといいます。
「その通り、まさにサクラでした」
そこでゴールドマンさんが打った手が、サクラです。さまざまな年齢の男女を雇い、客のふりをして店内でカートを押しながら買い物をさせました。さらに入口には案内係を置き、「ほら、みなさん使ってますよ」とカートを勧めさせます。効果はてきめんで、数週間のうちにカートは全店に広まりました。この話、都市伝説のように聞こえますが、1977年のCBSテレビのインタビューで、記者に「サクラですか?」と突っ込まれた本人が「その通り、まさにサクラでした」と認めている、映像付きの実話です(ただし経緯の詳細は本人の晩年の語りが主な出どころで、当時の第三者による記録は見つかっていません)。ちなみに誰も使ってくれなかった翌週には、「先週末、即座に大好評!」という実態とは異なる広告まで打っていたそうです。
王者への賠償金は、1ドルだった
カートはその後、レジや店舗設計とセットで小売業を塗り替え、ゴールドマンさんは製造会社とスーパー経営で財を成しました。1984年に亡くなった際の資産は、フォーブス誌の推定で2億ドル、一族全体では4〜5億ドルという推定もあります。
ただし、いま私たちが使っている「後ろのカートに前のカートを差し込んで収納する」入れ子式のカートは、彼の発明ではありません。1946年、カンザスシティの製図工オーラ・ワトソンさんが考案したものです。ゴールドマン側はよく似たカートを発表して特許争いになり、1949年の和解では、ワトソンさんの発明であることを認めて損害賠償を支払いました。その額、1ドル。代わりにゴールドマンさんは独占的な実施権を手に入れ、以後の広告には堂々とワトソンさんの特許番号を掲げたのでした。サクラで売り出した男は、最後まで商売がうまかったようです。
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参考にした情報源: en.wikipedia.org

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