ピエロはなぜ怖い?987人調査の1位はホラー映画ではなかった

エンタメ・カルチャー

ピエロを怖いと感じる人は少なくありません。原因としてよく挙げられるのは、1986年のスティーヴン・キング『IT』や、1982年の映画『ポルターガイスト』に出てくるピエロ人形。ホラー作品が刷り込んだイメージだ、という説明です。ところが調べてみると、時系列も、データも、この説明を裏切ります。

まず言葉から怪しいんです。ピエロ恐怖症を意味する「coulrophobia」はギリシャ語で「竹馬に乗る人」に由来する、ということになっています。ところがオックスフォード英語辞典が記録する初出は1997年、ネット掲示板に投稿された「ピエロを憎むべき34の理由」というネタ投稿。しかも同辞典自身が、この語形は十分に説明できず「恣意的な由来かもしれない」と匙を投げています。学術用語の顔をした、ネット製の造語のようです。

『IT』の5年前に、同じ騒動が起きていた

時系列も合いません。2016年、アメリカ各地で「不気味なピエロを見た」という通報が相次ぎ、ほぼ全州と18カ国以上に噂が広がる騒動がありました。ところがこれとほぼ同じことが、1981年5月にも起きているんです。ボストン近郊で「バンに乗ったピエロが子どもを誘おうとしている」という通報が続発し、プロヴィデンス、カンザスシティ、デンバーへと飛び火しました。犯人は一人も捕まっていません。『ポルターガイスト』は1982年、『IT』は1986年。集団パニックのほうが先だったわけです。

さらに遡ると、「人を殺す道化」は19世紀にはすでに定番でした。道化が上演中の舞台で妻を殺すオペラ『道化師』は1892年の初演ですが、その11年前の1881年には、ピエロが妻をくすぐり殺すという一人芝居のパントマイムがパリで上演されています。1836年には、実在の道化師ドビュローが路上で自分を野次った少年を杖で殴り殺し、裁判の末に無罪となる事件も起きました。当時この裁判はパリ中の話題になったのですが、その理由がまた皮肉です。無言劇のスターであるドビュローの声を、観衆が初めて聞ける機会だったからでした。

調査の1位は「表情が読めないこと」

では、なぜ怖いのか。南ウェールズ大学のフィリップ・タイソンさんらが987人を調査し、そのうち何らかの恐怖を持つ528人に、8つの理由を7点満点で採点してもらいました。結果、「ホラー映画などでの否定的な描写」は2位(5.03点)。1位は「化粧で表情が隠され、感情が読めないこと」(5.20点)でした。そして「実際に怖い目に遭った経験」は、8項目中の最下位(2.65点)です。別の研究では、ピエロは剥製師や葬儀屋を抑えて「最も不気味な職業」の1位に選ばれており、不気味さの正体は「危害を加える気があるのか判定できない曖昧さ」だと分析されています。

ピエロの化粧は、笑顔を描くことで、本当の表情を消してしまいます。永久に笑っている顔は、何を考えているか永久に分からない顔でもある。ホラー映画はピエロを怖くしたのではなく、ずっと前から仕込まれていた仕掛けを、言葉にしただけなのかもしれません。ちなみに2008年、イギリスのシェフィールド大学が小児病院のデザインを改善しようと4歳から16歳の子ども250人以上に聞き取りをしたところ、壁に描かれたピエロの絵は、全年齢層に普遍的に嫌われていたそうです。


関連記事


参考にした情報源: pmc.ncbi.nlm.nih.gov

コメント

タイトルとURLをコピーしました