クマムシが最強なのは、生き物をやめているあいだだけだった

生き物・自然

クマムシは「最強生物」として有名です。真空でも高温でも死なない、月にも生きている——そんな話をよく見かけます。ただし一次資料を読むと、その強さには厳しい条件がついていました。

いちばん鮮やかなのが圧力の実験です。同じ種、同じ装置で、1.2ギガパスカルという圧力をかけたところ、乾眠状態の個体は全個体が正常に動き、水を含んだ活動状態の個体は1匹も動きませんでした。別の研究でも、活動状態は200メガパスカルで生存率ゼロ、乾眠状態は600メガパスカルで95%が生存しています。条件がひとつ違うだけで、結果が100%と0%に割れるわけです。

乾眠とは、体の水分を85%から1〜3%まで落とし、代謝がほぼ完全に止まった状態のこと。日本の研究者による総説は、この状態を「もはや生命ではなく物質であると言い表される」と表現しています。つまりクマムシは、生き物をやめることで強くなる生物なんです。活動中の耐熱性はごく穏やかで、24時間さらされた場合の半数致死温度は37.1度でした。

宇宙実験の中身も、少し違う

2007年、欧州宇宙機関の実験で乾眠状態のクマムシが10日間、低軌道の宇宙空間にさらされました。結果、真空だけなら地上の対照群と有意差なく生存しています。ところが太陽の紫外線を全波長浴びせた群では、生き残ったのはわずか3個体。もう一方の種は1匹も蘇生しませんでした。太陽光に直接さらされた卵からは、幼体が1匹も生まれていません。「宇宙で生きられる」というより、「真空は平気だが日光で死ぬ」というのが実態のようです。

「月にクマムシが生きている」という話も検証が必要です。2019年に月面へ墜落した探査機に搭載されていた件ですが、2021年に軽ガス銃で衝撃実験を行った研究では、秒速0.901キロメートル(1.14ギガパスカル)で生存率がゼロになりました。それ以上の速度では個体が物理的に砕けています。なお、この論文の本文に探査機の名前は一度も出てきません。関連づけたのは取材でのコメントのほうです。そして仮に生きていたとしても、月には液体の水がないので、二度と乾眠から覚めることはありません。

放射線だけは、例外だった

ここまで「乾眠でしか強くない」という話をしてきましたが、ひとつだけ例外があります。放射線です。ガンマ線の半数致死線量を比べると、水を含んだ活動状態が5000グレイ、乾眠状態が4400グレイ。活動状態のほうが強いのです。

その理由が近年分かってきました。2024年の研究によれば、クマムシはヒトの細胞と同程度にDNAを傷つけられています。損傷を防いでいるのではなく、被曝直後に修復遺伝子を猛烈に働かせて直しているのです。頑丈な鎧ではなく、優秀な修理工だったわけですね。

ちなみに「人間の1000倍の放射線でも平気」という言い方は不正確です。1000グレイを超えると生殖能力を失うことが確認されており、平気ではありません。よく見る「151度に耐える」という数字も、1921年の単発の報告が出どころで、現代の再検証では103度以上でほぼ全滅しています。


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参考にした情報源: nature.com

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