死骸なら、19世紀から知られていました。浜に打ち上がった巨体は標本になり、海の怪物クラーケンの伝説とも結びつけられてきました。それでも「生きて泳ぐ姿」だけは、誰も見たことがなかったんです。
それが変わったのが2004年9月30日の朝。小笠原沖の水深900メートルでした。国立科学博物館の窪寺恒己さんと、小笠原ホエールウォッチング協会の森恭一さんが仕掛けたのは、餌とカメラを吊るして自動で撮る装置です。餌はスルメイカと、匂いを出すオキアミのすり身。カメラは30秒ごとにシャッターを切り続けました。
場所選びが利いていました。ダイオウイカを食べるマッコウクジラが潜る海域から逆算して狙ったんです。それでも3年で23回の投入が必要でした。
4時間13分の格闘
その日、餌に食らいついたイカは、4時間13分ももがき続けました。そして最後には、自分の触腕をちぎって逃げていきます。残されたのは、長さ5.5メートルの触腕。研究者たちは500枚を超える連続写真と一緒に、その一本を船に引き上げました。人類は生きた姿を初めて見たその日に、体の一部を手にしていたわけですね。
動く姿が撮れたのは、さらに8年後です。2012年7月、赤い光を使い推進器も持たない無人カメラが白黒の映像を捉え、その約1週間後、窪寺さんらを乗せた潜水艇が水深630メートルでカラー撮影に成功しました。強い白色光と機械の音が、それまで彼らを遠ざけていたんです。
ちなみに、よく言われる「20メートル」という大きさ。実測に基づく記録はなく、専門家は触腕がゴムのように伸びた結果だと見ています。胴体そのものは、2メートル少々しかありません。
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参考にした情報源: pmc.ncbi.nlm.nih.gov


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