宇宙飛行士は、面ファスナーで鼻をかいた

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面ファスナー——「ベリッ」と剥がれる、あの留め具です。生まれたきっかけは、犬の散歩ならぬ狩りの帰り道でした。

1941年、スイスの技師ジョルジュ・デ・メストラルさんがアルプスから戻ると、自分の服と愛犬の毛に、ゴボウの実がびっしり付いていました。普通なら舌打ちして払い落とすところです。彼は顕微鏡でのぞきました。そこにあったのは、何にでも引っかかる無数の小さなカギ。

ただ、そこから先が長い。本格的な研究を始めたのが1948年、スイスで特許を出願したのが1951年、成立は1955年です。着想から14年。輪を切るための専用の織機まで作る必要がありました。名前の由来はフランス語で、ベルベット(velours)とかぎ針(crochet)の合成です。

月では、砂に負けた

この留め具が輝いたのが宇宙でした。無重力では、手を離した物がどこかへ漂っていきます。アポロの司令船では計器盤にチェックリストを、月着陸船では機器や床に、月面車では座席やケーブルに使われました。

そして、NASAの資料にこんな記述があります。一部の飛行士は、ヘルメットの給食口の内側に小さな面ファスナーを貼っていた。鼻をかくためです。ヘルメットは開けられませんから、かゆい時はそこへ顔を押しつけて擦った、というわけですね。犬にくっついた雑草の実が、25年ほどで「宇宙で鼻がかゆい」を解決していたことになります。

もっとも月では苦戦しました。月の細かい砂が入り込んで、留まらなくなってしまったんです。

ちなみに、よく言われる「NASAが発明した」は誤りで、NASA自身が公式サイトで否定しています。あと呼び名について。「マジックテープ」はクラレの登録商標、「ベルクロ」も商標です。権利者は名前が一般名詞になるのを警戒していて、ベルクロ社は2017年、自社の弁護士が「その名で呼ばないで」と歌うミュージックビデオまで公開しました。というわけで、この記事では一般名の「面ファスナー」で通しています。


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参考にした情報源: nasa.gov

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