婚約指輪の「給料3ヶ月分」は、伝統ではなく広告のコピーだった

社会・ビジネス

「婚約指輪は給料3ヶ月分」。日本では、まるで昔からの言い伝えのように語られることがあります。でもこの基準、実は伝統でも何でもなく、1960年代に広告代理店が日本市場向けに作った数字です。仕掛けたのはデビアス社。キャンペーン開始当時、日本人女性の婚約指輪にダイヤモンドが使われる比率は5%にも届いていませんでしたが、わずか15年ほどで6割前後まで急上昇しました。

そもそもの発端は、1947年にアメリカの広告代理店N.W.エイヤー社のコピーライター、フランセス・ジェラティさんが徹夜仕事の末に書いた一文でした。「A Diamond is Forever(ダイヤモンドは永遠に)」。デビアス社はこのコピーを軸に、婚約指輪へのダイヤ需要そのものを一から作り出していきます。当初は「給料1ヶ月分」だった目安も、アメリカでは後に「2ヶ月分」へ引き上げられました。

地中には1000兆トン眠っている

肝心のダイヤモンドは、地質学的にはそれほど珍しい鉱物ではありません。炭素はありふれた元素で、地下100マイルを超えるマントルの高温高圧環境では、ダイヤモンドの結晶化はむしろ「よくある」現象です。2018年、マサチューセッツ工科大学が主導した研究チームは、地震波データから大陸最古の岩盤に含まれるダイヤモンドの総量を、なんと1000兆トン規模と推計しました。現在の採掘技術では手が届かない深さですが、「地球上に存在する量」としては、決して稀少とは言えない規模です。

それでも市場に出回るダイヤモンドが高価だったのは、デビアス社が供給量そのものを絞り込んでいたからです。1930年代に整えた一元的な販売網を通じ、需要が弱い時期は出荷を減らして値崩れを防ぎ、ピーク時には世界の原石供給の8〜9割程度を握っていたとされます。

神話を作った会社が、神話に追い詰められている

ところがこの独占体制、1990年代以降に崩れていきます。ロシアやカナダで新しい鉱山が次々と稼働し、デビアスの流通網を経由しないダイヤモンドが市場に出回るようになったからです。2004年にはアメリカで工業用ダイヤモンドの価格カルテルをめぐり有罪答弁をし、罰金を支払う事態にもなりました。世界シェアは、2021年時点で25%ほどまで落ち込んでいます。

そして今、皮肉な展開が起きています。デビアス自身が手がけていた低価格の合成ダイヤモンドブランドは、量産技術の進歩による値崩れに耐えきれず2025年に撤退。親会社は2026年中の完全売却を進めていると報じられています。「永遠」を売り込んだ会社が、140年近く経ってその看板を手放そうとしているわけです。


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参考にした情報源: debeersgroup.com

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