2012年、ノーベル賞受賞者の一人であるアントン・ツァイリンガー博士らが、143km以上離れた2つの島の間で、量子状態の「転送」に成功したという報告があります。これは、衛星を使った量子通信や「量子ネットワーク」の実現に向けた、大きな一歩でした。
この現象の鍵を握るのが、「量子もつれ」と呼ばれる不思議な性質です。2つの粒子がこの状態になると、どれだけ離れていても、一方の状態を観測すると、もう一方の状態が瞬時に確定するのです。まるで、遠く離れた場所に「鏡」があるかのようです。
この「量子もつれ」は、2022年のノーベル物理学賞の対象にもなりました。アインシュタインが「不気味な遠隔作用」と呼んで疑問を呈したこの現象は、実験によってその非局所性が証明され、量子力学の奇妙な世界観を裏付けています。
では、この「量子もつれ」は、本当に「超光速通信」を可能にするのでしょうか。実は、ここには誤解があります。量子もつれを利用しても、意図した情報を「超光速で」伝えることは、原理的にできません。なぜなら、測定結果は確率的に決まるため、意味のある情報を送るには、光速を超えない古典的な通信手段との併用が不可欠だからです。
しかし、この「量子もつれ」は、解読がほぼ不可能な暗号鍵の配送を可能にする「量子インターネット」の基礎技術となります。さらに、離れた量子コンピューターを接続して、より強力なコンピューターを構築したり、光学望遠鏡の解像度を劇的に向上させたりする可能性も秘めています。
最新の研究では、従来の1000倍以上高速な量子もつれの生成・観測に成功し、ピコ秒(10⁻¹²秒)スケールでのリアルタイムな量子もつれ生成が可能になりました。これは、数十ギガヘルツ(GHz)クロックの量子システム実現への道を開くものです。また、大都市の12.5km離れた拠点間で、光ファイバーを介して量子もつれを生成する実験も成功しています。SFのような技術が、少しずつ現実のものとなりつつあるのです。
この量子もつれという現象は、私たちの直感を超えた、宇宙の深遠な繋がりを示唆していると言えるでしょう。


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