メルカトル図法が歪んでいるのは、間違いではなかった

雑学・不思議

世界地図を見ると、グリーンランドはアフリカ大陸とほぼ同じ大きさに描かれています。でも実際の面積は、アフリカがグリーンランドの14倍近くあります。よく「メルカトル図法は嘘をついている」と言われる、おなじみの指摘です。

でも、この図法を1569年に考案したゲラルドゥス・メルカトルは、世界の大きさを偽ろうとしたわけではありません。目的は航海です。メルカトル図法には「角度を正しく保つ」という特性があり、地図上に定規で直線を引けば、それがそのまま一定の方位(コンパスの向き)を保つ航路になります。道しるべだけを頼りに大洋を渡っていた時代、これは命に関わる発明でした。

丸いものを平らにする、避けられない代償

球体を、破ったり伸ばしたりせずに平らな紙へ写す方法は存在しません。これは数学的な事実で、どんな図法を選んでも、形・面積・距離・角度のすべてを同時に正しく保つことはできない。メルカトル図法は「角度」を選んだ図法です。その代償として、赤道から離れるほど面積が実際より大きく描かれ、極に近づくほど誇張は際限なく膨らんでいきます。

この誇張が行き着く先が、南極大陸です。極点では拡大率が理論上無限大になるため、そのまま描くと地図の高さも無限に必要になってしまう。だから市販の世界地図の多くは、南緯80度あたりで地図を打ち切るか、南極を実際よりずっと引き伸ばした帯として処理しています。おなじみの世界地図で、南極大陸だけがいつも妙な扱いを受けているのは、このためです。

教室から始まった巻き返し

2017年、アメリカのボストン公立学校区は、教室で使う世界地図を、面積の比率を正しく保つゴール・ピーターズ図法に切り替えました。全米の公立学校区としては初めての試みで、「子どもたちに正しい世界の大きさを見せる」という狙いでした。

ただし、地図史の研究者たちの反応は手放しの賛成ではありません。ゴール・ピーターズ図法も、面積を正しく保つ代償として、大陸の形を大きく歪めてしまいます。地図史家のマシュー・エドニー氏らは、「ピーターズ図法さえ使えば解決する」という単純化した物語に異を唱えています。面積も、形も、距離も、角度も、すべてを一枚の地図で満たす方法は、そもそも存在しないからです。

もうひとつ、切り分けて考えたいことがあります。「メルカトル図法を見て育つと、赤道付近の国々を無意識に軽視するようになる」という、政治的な影響を指摘する主張もよく語られます。面積が歪んで見えるという数学的な事実は確かです。でも、それが人の認識や政治観にどれだけ影響するかという因果関係は、まだ厳密に実証された話ではありません。地図の誤差と、地図が人に与える影響は、別々の問題として扱うべきでしょう。

メルカトル図法は、生まれたときから航海用の道具でした。教室の壁に貼って世界の大きさを教える道具として使うのは、そもそも用途が違います。歪んでいたのは地図ではなく、使い方だった、というわけです。


参考にした情報源: en.wikipedia.org

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