しゃっくりが出ると、こんな豆知識を耳にすることがあります。「あれは、大昔の祖先が魚やオタマジャクシだった頃の、エラ呼吸の名残なんだよ」。よくできた話に聞こえますが、これは今も専門誌で議論が続いている、いくつかある仮説のひとつにすぎません。
この説を最初に打ち出したのは、2003年に学術誌ビオエッセイズに載った論文です。オタマジャクシは、口から吸い込んだ水をエラに通して呼吸しますが、その際、水が肺に入らないよう声門を閉じながら急激に水を吸い込む動きをします。論文の著者たちは、しゃっくりのときの「勢いよく息を吸い込みながら声門を閉じる」という動きが、この太古の呼吸パターンの名残ではないか、と提案したんです。
横隔膜が動いて、0.035秒後に喉が閉まる
実際のしゃっくりの仕組みは、こうです。横隔神経や迷走神経が脳幹に信号を送り、横隔膜が急に収縮する。その約35ミリ秒後、今度は喉の声門が勢いよく閉じて、あの「ヒクッ」という音が生まれます。ここまでは、生理学として広く確認されている事実です。
ただし、「なぜこの反射が存在するのか」という進化的な理由になると、話は途端に不確かになります。2003年の論文自体が「複数の仮説が提唱されている」と、自説を確定事実ではなく一仮説として書いています。実際、2012年には全く別の研究者が「授乳中に赤ちゃんが飲み込んだ空気を排出するための仕組みだ」という説を、同じ学術誌に発表しました。2023年にはさらに別のグループが「呼吸のリズムがたまに乱れる現象の一種」という第三の説を提出しています。魚だった頃の名残説は、20年間、決定打にならないまま複数の説のひとつであり続けているわけです。
68年間しゃっくりが止まらなかった男性
しゃっくりにまつわる記録では、アメリカのチャールズ・オズボーンさんの話が飛び抜けています。1922年、豚の体重を量ろうとして倒れたのをきっかけに始まったしゃっくりが、なんと1990年まで、約68年間続いたそうです。回数は推定で4億3千万回ともいわれますが、これは実際に数えた数字ではなく、あくまで計算上の推定値です。
止め方についても、俗説と、それなりに根拠のある方法は分けて考えたいところです。砂糖をひとさじ飲み込む方法は、1971年の医学誌に「20例中19例で即座に止まった」という報告がありますが、これも規模の小さい症例集積にすぎません。反対に、驚かせる・ピーナッツバターを飲み込む・耳を引っ張るといった定番の言い伝えには、これといった医学的根拠は見つかっていません。しゃっくりは、原因も治し方も、思っているよりずっと「研究中」の現象のようです。
参考にした情報源: pubmed.ncbi.nlm.nih.gov


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