キーボードのF・Jの突起は、法律で義務なのに発明者が分からない

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キーボードのFとJに、小さな突起があります。目で見ずにホームポジションを確認するためのもので、毎日触っているはずです。ではこれ、誰が発明したのでしょうか。調べてみると、驚くほど分かりません。

先に確かなことから。この突起、アメリカでは法律で義務づけられています。リハビリテーション法508条にもとづく規則には、アルファベットキーについて「FキーとJキーは他のキーと触覚的に区別できなければならない」と、キー名まで名指しで書かれています。テンキーの5に突起があるのも同じ規則によるもので、こちらも法定です。これはタイピング速度のための規定ではなく、アクセシビリティ、つまり目の見えない人のための規定として存在しています。

ネットで最も流通している説は、特許を読むと違う話だった

では発明者は誰か。検索すると「2002年にジューン・ボティッチという人物が発明した」という説が大量に出てきます。実際、その名前の特許は存在します。ところが特許の中身を読むと、まったく別の発明でした。キーの「縁」に触覚の目印を付けるもので、Aキーの左縁、Fキーの右縁、Jキーの左縁といった位置に付ける設計です。今のキーボードにある、キーの中央の突起とは別物なんです。そもそも1980年代のキーボードにはすでに突起があるので、時系列も合いません。

他にも「1930年代にドヴォラックが真鍮のリベットを使った」「IBMが1950年代に0.3ミリの隆起を完成させた」といった説明が出回っていますが、いずれも出典が示されておらず、一次資料で確認できませんでした。「IBMが1970年代に導入した」という説も同様です。

規制当局すら「もうみんなやっているから」としか書いていない

面白いのは、法律を作った側の説明です。米国の規制当局はこの規定について、既存の設計慣行であり、追加のコストは発生しない、という趣旨の説明をしています。つまり「すでに業界がやっていることを追認しただけ」であって、なぜそれが始まったのかには一切触れていません。法が慣行を認めたけれど、その慣行の出どころは誰も記録しなかった、という構図です。

おそらくこの突起は、特許で守られた「発明」としてではなく、業界の慣行として自然に広まったのだろうと考えられます。だから発明者がいない。

最後に小ネタをひとつ。この突起、昔のマッキントッシュではFとJではなく、DとKに付いていました。人差し指ではなく中指の位置です。アップルがPCと同じFとJに揃えたのは、1998年の初代iMacに付属したUSBキーボードからでした。突起の位置でも独自路線を行っていた、ということのようです。


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参考にした情報源: ecfr.gov

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