世界各地で「低い唸り音が聞こえる」という報告が続いている場所があります。ニューメキシコ州タオス、スコットランドのラーグス、カナダのウィンザー。共通するのは、聞こえる人と聞こえない人がいることと、音源が特定できないことです。
タオスでは1993年、住民の訴えが地元選出の議員団を動かし、ロスアラモス国立研究所やサンディア国立研究所、ニューメキシコ大学などから約12人の研究者が集まって調査が行われました。住民が政府の関与を疑っていたため、調査は公開で実施されたそうです。
音の正体を探るため、18インチのウーファーを改造した重さ150ポンド超の自作マイク「big ear」まで持ち込まれました。聞こえる人10人のうち8人が、再現性のある音を作り出すことに成功します。周波数は32〜80ヘルツ。音楽家の参加者は「変ホ音(約41ヘルツ)あたりの変調音」と言い当てました。ちなみに地震計が捉えた「巨大なイベント」の正体が、設置で塞がれた巣穴を修復しようとするホリネズミだった、という記録も報告書に残っています。
結論は率直なものでした。「我々に残されたのは謎である。ハムを説明しうる既知の音響信号は存在せず、それを説明しうる地震活動も存在しない」。疑われていた米海軍の超低周波通信施設の帯域も精査されましたが、何も出ませんでした。なおこの調査で有名な「住民の約2%が聞こえる」という数字は、8,000人に調査票を送り161人が該当したことから出たもので、報告書自身が「全員が回答したと仮定した場合の下限値」と慎重に書いています。
「音源が特定できたら、それはもうハムではない」
この現象を理解する鍵は、意外なところにありました。英国政府の委託でまとめられた2003年の報告書が、ハムをこう定義しているんです。「ハムとは、継続的な苦情を引き起こしているが、単一の、あるいはいかなる音源にも辿り着けない低周波騒音に与えられた名前である。もし音源が特定された場合、その問題は騒音制御工学の領域に移り、もはや『ハム』ではなくなる」。
つまり、原因が判明したものは自動的にリストから抜けていく仕組みです。インディアナ州のココモのハムは故障した冷却ファンが原因と判明し、解決した瞬間に「ハム」ではなくなりました。カナダのウィンザーでも、対岸の製鉄所が疑われ、2020年に高炉が操業を停止すると苦情が止んでいます。調査した大学の研究者は「99%、解決したと考えている」と述べました。ただしこれは操業停止と苦情消滅が一致したという状況証拠で、しかも当時の共同調査では、2つの大学チームの結論が割れていたという経緯もあります。
31年越しに、宿題が解かれた
近年は、音源が外ではなく耳の中にある可能性が注目されています。ここで大事なのは、それは「気のせい」という意味ではないということです。耳鳴りは実際に起きている生理現象であって、想像ではありません。
1995年のタオス調査の報告書は、最後にこう書いていました。次にやるべきは低周波の聴力閾値の比較と、低周波での耳音響放射の測定である。ただし「我々が調べている周波数帯で検出に成功したという報告は皆無だ」と。そして2026年3月、ドイツとノルウェーの研究チームが、まさにその測定を実行します。聞こえる人28人を対象に調べた結果、低周波の聴力が異常に鋭敏だったのは2人だけ。そして約900ヘルツ以下では、両群とも耳音響放射は検出されませんでした。31年前の予告どおりだったわけです。論文は「低周波の耳鳴りは多くの、しかしすべてではない事例のよい説明になりうる」と、慎重な結論にとどめています。
最後にひとつ、紛らわしい話を。「地球のハム」という別の現象があり、海洋波が地球を微振動させるものとして2015年に説明されています。ただしこちらは周期50〜300秒、周波数にすると0.0033〜0.02ヘルツ。人間の可聴下限である20ヘルツより、1000倍から6000倍も低い音です。オクターブにして10以上、ピアノの全音域より広く下。名前が同じだけの、まったく別の現象です。
関連記事
参考にした情報源: acousticalsociety.org


コメント