デスバレー国立公園の中に、「レーストラック・プラヤ」と呼ばれる乾いた湖底があります。ここに転がる岩の中には、誰も動かしているところを見ていないのに、地面に長い軌跡を残しながら移動しているものがありました。重いものでは320キロを超える岩まで動いた形跡があり、何十年もの間、地質学者たちを悩ませてきた謎です。
2014年、いとこ同士の研究者リチャード・ノリスさんとジェームズ・ノリスさんを中心にしたチームが、査読誌プロスワンについに答えを発表しました。2011年からGPS発信機を仕込んだ石(国立公園局の許可の都合で天然石を削って自作)をプラヤに設置し、気象観測装置とタイムラプスカメラも併設。気の遠くなるような監視を何年も続けた末、2013年12月についに岩が動く瞬間をとらえます。
浮いていたのではなく、押されていた
その日、プラヤ南部にできていた深さ約10センチの浅い水たまりが、夜のうちに厚さわずか3〜6ミリの薄い氷になっていました。日中、太陽で氷が溶け始め、正午前後に吹いた秒速3〜5メートルほどの軽い風で氷が割れ、数十メートル規模の氷の板になって水面を漂います。この氷板が岩を横から押し、岩は分速2〜5メートルほどの速さで滑っていきました。ある日には、一度に60個以上の岩が同時に動いたそうです。
興味深いのは、この観測結果が、研究チーム自身がそれ以前に唱えていた仮説を一部裏切ったことです。中心メンバーの一人ラルフ・ローレンツさんは2011年、「岩が氷に浮かんで持ち上げられ、風の抵抗を受けやすくなって動く」という『氷いかだ』説を発表していました。ところが実際に観測してみると、氷はわずか数ミリしかなく、岩を浮かせるには薄すぎたんです。実際には、氷が岩を横からブルドーザーのように押し、水浸しになって滑りやすくなった泥の上を滑らせていた、というのが真相でした。浮力ではなく、摩擦の低下が主役だったわけです。
なぜ70年近く誰も気づかなかったのか
移動の速さは分速2〜5メートル程度。これは、たとえその場に居合わせても、動いていると気づきにくい速さです。研究チームもこの点を、長年目撃されなかった理由として挙げています。なお、磁場が原因とする説や、誰かのいたずらだとする説もネット上ではよく語られますが、これらは査読論文には一切登場せず、根拠のはっきりしない俗説にとどまります。ちなみにこの調査、「のたくる石研究イニシアチブ」という名の、大勢の市民ボランティアに支えられた手作りのプロジェクトでもありました。
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参考にした情報源: journals.plos.org


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