猫のゴロゴロは、脳から切り離した喉だけでも鳴った

生き物・自然

猫のゴロゴロ音。あれがどうやって出ているのか、教科書はずっとこう説明してきました。喉の筋肉が毎秒20〜30回という速さで規則的に収縮し、声門を断続的に開け閉めしている。神経が指令を出し続けることで鳴る、という説明です。この定説の根拠は、実質1972年に発表された1本の論文でした。

2023年、ウィーン大学のクリスティアン・ヘルプストさんらのチームが、この説明について論文の中でこう書いています。「この機構の直接的な実証的証拠は乏しい」。そして彼らが行った実験が、なかなか強烈でした。

喉だけにして、空気を送ったら

研究チームは、呼吸器とは無関係の病気で亡くなった猫8匹から、飼い主の同意を得て喉頭を摘出しました。脳も神経も筋肉の指令もない、喉だけの状態です。ここに空気を送り込んだところ、8個すべてが、毎秒25〜30回という、まさにゴロゴロ音そのものの周波数で自然に振動しはじめたんです。神経の指令がなくても、あの音は鳴る。

鍵を握っていたのは、猫の声帯に埋まっていた最大4ミリほどの結合組織の塊でした。これが声帯のいちばん内側を柔らかくし、体の大きさに似合わない低い音を可能にしているようです。ちなみにこのときの発声の仕組みは、人間でいう「ボーカルフライ」、あの喉を軋ませるような低いダミ声と同じでした。猫は日常的にボーカルフライで喋っていた、ということになります。

ただし著者たちは、慎重な留保もつけています。論文には「生きた猫のゴロゴロにおける周期的な神経制御を排除するものではない」と明記されており、現在の作業仮説は、受動的に振動する声帯が神経のリズムに引き込まれる、という二重の仕組みです。つまり、まだ決着はついていません。

「ゴロゴロで骨が治る」は、確かめられていない

目的のほうも、実はよく分かっていません。「ゴロゴロ=幸せのサイン」というイメージがありますが、2025年の研究では、動物病院で診察を受けた猫582匹のうち51匹が、心音の聴診を妨げるほど大きく喉を鳴らしていました。しかも高齢の猫や病気の猫のほうが有意に多かったそうです。

よく語られる「ゴロゴロの周波数には骨や組織を治す効果がある」という説にも触れておきます。この説の出どころは、2001年の学会発表の要旨で、査読を経た原著論文ではありません。振動が骨に良いという別分野の研究では、ヒツジに30ヘルツの振動を1年与えて骨密度が34.2%増えたという報告がある一方、人間を対象にした大規模な臨床試験は2本とも効果を確認できていません。そして「猫のゴロゴロで治る」を直接検証した研究は、今のところ1本も存在しないようです。


関連記事


参考にした情報源: cell.com

コメント

タイトルとURLをコピーしました