沈黙が語る、猟奇事件と悪魔の映画

ミステリー

1970年代、西ドイツの片田舎で起きたある事件は、関係者の口が固く閉ざされたまま、真相が闇に葬られました。数日間、ある農家で過ごした人々の一部は生還しましたが、事件について語ることはありませんでした。警察が現場を捜査したところ、地下から子供の遺骨を含む複数の遺体が掘り起こされたという、あまりにも陰惨な事実が明らかになったのです。

この、名前すら残らない猟奇的な事件は、2009年にドイツの地下映画監督マリアン・ドラによって、過激なアートホラー映画『悪魔のメルンコリー』として結実しました。ドラ監督自身が2017年のドキュメンタリーで、この映画が1970年代の西ドイツで起きた犯罪事件に基づいていることを明かしています。

ドラ監督は、極左テロ組織「ドイツ赤軍」(RAF)のリーダーであったアンドレアス・バーダーに強い関心を寄せていました。彼女は、この事件に影響された人々が、バーダーの思想とも通じるような「人生の無意味さ」を、その農家でどこまで追求しようとしたのか、という可能性を推測しているようです。

事件について語ることを拒否した生還者たちの沈黙は、極限状態に置かれた人間の心理や、未解決事件が残す深い傷跡を物語っているかのようです。その沈黙こそが、事件の陰惨さを一層際立たせているのかもしれません。

この事件の状況は、1922年にドイツ・バイエルン州で起きた「ヒンターカイフェック一家惨殺事件」とも重なる部分があります。ヒンターカイフェック事件でも、犯人は数日間現場に潜伏し、一家6人が惨殺されましたが、犯人は未だ見つかっていません。

事件の真相は未だ不明なままですが、マリアン・ドラ監督による映画『悪魔のメルンコリー』は、この事件の持つ凄惨な雰囲気を、165分という長尺の延長版で表現しています。監督が事件について語る2017年のドキュメンタリー『Revisiting Melancholie der Engel』は、この不可解な事件の背景を想像する上で、貴重な手がかりとなるでしょう。

悪魔のメルンコリーを誘発した未解決事件
画像: Wikipedia「Melencolia I」より

私個人としては、事件そのものの恐ろしさよりも、関係者がなぜ固く口を閉ざしたのか、その「沈黙」にこそ、想像を絶する何かが隠されているような気がしてなりません。


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