昔から農家は、収穫した作物から種を採り、翌年まいてきました。ところが今、その当たり前が、作物によっては簡単にできなくなっています。なぜでしょう。
よく「法律で種の保存が禁止されている」と語られますが、これは正確ではありません。たとえばアメリカの連邦種子法(1939年)は、種の表示や品質をごまかして売ることを禁じる『ラベルの正直さ』を定めた法律で、農家が自分の種を採って使うこと自体は禁じていません。
種の自家採取を縛っているのは、別の仕組みです。ひとつは品種を保護する権利(植物品種保護)。もうひとつは、遺伝子組み換え作物などにかけられた特許です。こうした種を買う農家は、たいてい『採った種を翌年まかない』という契約に同意したうえで購入しています。
2013年、アメリカの最高裁はこの点をはっきりさせました。特許で守られた大豆の種を買った農家が、収穫から採った種を再びまいたところ、特許侵害と判断されたのです(ボウマン対モンサント事件)。種をまくたびに、特許された遺伝子が複製される、という理屈でした。
一粒の種に、法律と契約と特許が折り重なっている。台所の隅にある何気ない種が、現代の「所有」のかたちを映す鏡になっているのです。
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